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最高裁判所第二小法廷 昭和27年(オ)653号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人藤沼武男の上告理由について。

本件農地はもと、上告人の先代亡田辺保治郎の所有であつたが、同人は昭和二四年九月一四日これを被上告人に贈与したこと、右贈与については被上告人は栃木県知事に対し、農地調整法施行令第二条第一項に基き、これが許可の申請をなし、同年一二月二日附をもつて同知事から許可せられたことは原判決の確定するところである。従つて、右農地の贈与はその許可によつて、許可のあつたときから効力を生じたものと解すべきである。原判決は、右許可により贈与契約成立のときに遡つて効力を生ずるものと判示しているけれども、許可は右贈与の効力発生の要件であることは、農地調整法第四条の規定するところであり、原判決のごとき効力の遡及を認めるべき法的根拠はないのであるから、この点に関する原判決の判断はあやまりであるといわなければならない。しかしながら、本件贈与契約は亡田辺保治郎の生前に成立したことは前段説示のとおりであつて、右許可が同人死亡後に受贈者たる被上告人に対しなされたという事実は右贈与の効力の発生を妨げるものではない。論旨は右許可の当時田辺保治郎は既に死亡していたのであるから、贈与は遂にその効力を発生せずに終つたのであると主張するけれどもかかる見解を採ることはできない。けだし、この許可は贈与の有効要件であつてその成立の要件でないのみならず、この許可は所論のように必ずしも贈与の成立前になされなければならないものと解すべき根拠はないからである。ただ、その効力は許可のときから将来に向つて発生すべきことは所論のとおりであつて、この点に関する原判決の判断のあやまりであることは前説示のとおりであるけれども、右許可のときに、贈与者の死亡せることはその効力の発生を妨げるものではなく、被上告人は右贈与に因り本件農地の所有権を取得したものと解する以上、原判決の前示解釈のあやまりは結局において、右結論に影響するところないものと云わざるを得ない。

次に、右贈与に因る本件農地の所有権移転登記については昭和二五年一月一四日、権利者、被上告人名義に登記のなされていることは原判決の確定するところである。しかして右登記が当時既に死亡していた田辺保治郎を登記義務者としてなされたことも原判決の確定するところであるけれども、右贈与については保治郎の相続人たる上告人においても異議のなかつたところであり、被上告人が前記知事の許可の申請をするにあたつても、これに添付すべき上告人名義の同意書については、被上告人は上告人から、その作成方を依頼され、その印章をも預けられ、その委託にもとずいてこれを作成提出した事情関係にあることは、これまた、原判決の確定するところである。して見れば、特段の事情のみるべきもののない本件においては被上告人が、亡保治郎名義を以てした前示所有権移転の登記は、亡保治郎の意思はもとより、上告人の意思にも反するものでないと解するのが相当であつて、もとより、所論の如く不正無効の登記を以て目すべきかぎりでない。しかして、右登記が、贈与に因る本件農地の所有権移転の実体と吻合するものであることは原判示のとおりであるから、かくの如き場合、上告人は被上告人に対し右登記抹消請求の権利はないものと判断して、上告人の右請求を排斥した原判決は正当であつて、これと反対の見地に立つ論旨は理由なきものと云わなければならない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、全裁判官一致の意見を以て主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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